音楽主義 プロダクションとアーティストのための「クラウド」基礎知識
欧米を席巻中のサービス「Spotify」の機能
――そんななか、海外の大きな成功例のひとつとしてSpotifyがあるんですね?
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現段階で、音楽ファンの立場から考えられるひとつの理想型だと思ってます。もちろんそのうえで、こんなに便利で、お手頃で、大丈夫なのかな?って思いももちろんあります。なのに、何で一生懸命このサービスについて研究してるかっていうと、ユーザー体験として非常に充実感があったからなんです。今後Spotifyがどうなっていくかはまだわからないですけど、これが近い将来、ひとつのモデルになることは間違いないだろうなって思いました。それを、著作権事業者の立場である自分が、身をもって触れておくことは重要だなって思ったんですね。
――荒川さんが感じた充実感とは、使い勝手の良さってことなんでしょうか? 現時点では「CD×iPod」や、「iTunes×iPod」、もしくは「携帯電話×着うた」というのが一番の音楽の聴かれ方だと思いますが。
使い勝手としては、インターフェースがiTunesに近いんですね。しかもレスポンスの良さも素晴らしいんです。これまで使っていた自分のiTunesのライブラリーと連携もすることもできます。さらに良い点をあげるとしたら「アーティストラジオ」って機能があるんですね。この機能が、さっきの分類でいくと「パーソナライズドラジオ」と近いんですよ。たとえば、好きなアーティストがいて、自分がそのアーティストの音楽を聴くと、関連性の深い楽曲を、ずーっとラジオ風に再生し続けてくれるんですね。で、7曲目にかかったこの曲が良いなって思ったら、それをチェックしておくことができて、そのアーティストだけを聴くこともできるし、単曲買いすることもできちゃうんですよ。そんな、ある種のネットサーフィン的な楽しみ方が自然にできるんですね。それが音楽体験として絶妙だったんです。――ひとつのインフラ兼再生プレイヤーで、楽しみ方が完結できるわけですね。
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もうひとつあげるとしたら、これは最近の出来事なんですけど、SpotifyはFacebookと提携を発表して、親和性を高めているんですね。そうすると、Facebookを通じて自分が聴いてる曲の記録を残せるし、フレンドが聴いてる楽曲との新しい出会いもあるんです。音楽を通じて、自分の趣味に近い人を知れたりって楽しくないですか? しかもSpotifyで作ったプレイリストって、まるごと交換もできるんですね。その感覚って、80年代でいう「ミックステープ交換」に近いんですよ。あと、「コラボレーティブプレイリスト」って機能もあって、ネット上で友人とコラボしながらプレイリストを作ることもできます。
――音楽がSpotifyによってソーシャル化されることで、ネット上でコミュニケーションツールになるんですね。
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そうですね。それに、インターフェースがiTunesに似ていることもあって使いやすいし、曲を聴こうと決めて、クリックして即座に楽曲が立ち上がるスピードも速いんですよ。このサクサク動く感じが良いですね。ストリーミングなのに、なかなか再生されないっていうストレスはほとんどないんです。
――そうなると、エンコードだろうが、ダウンロードだろうが、ストリーミングであろうが、ってことを考えなくなるんですね。
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まったく意識しないですね。そんな意味でまさに“Anytime, anywhere from any device”なんです。なのに、1,600万曲を聴き放題で、しかも音楽がコミュニケーションツールになるってところが圧倒的に面白いですよね。
クラウド型音楽サービスがなぜ日本ではほぼ皆無なのか
――ちなみに、まだ日本ではまだSpotifyのサービスを使えなかったりしますが、その理由としては、レコード会社の楽曲のライセンス問題が大きいのでしょうか?
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そうでしょうね。でも、ここ半年ぐらいで興味を持っている業界人も増えてきたと思います。それまではどちらかといえば、敵視するような方が多かったと思うんですけどね…。もちろんSpotifyが日本に来たら、CDが売れなくなるかもという不安感に対して、なんらかの答えを持ってるかって聞かれたら、僕もまだ探してる状態です。だけど、少し話がそれるんですけど、先日Appleのスティーブ・ジョブズが亡くなって、『スティーブ・ジョブズ』って本が出たじゃないですか? あのなかで、彼のビジネスのルールってとこで「共食いを恐れるな」ってあったんですね。そもそもiPhoneってiPodのマーケットを食ってしまうデバイスじゃないですか? でも、自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだろう、と。誰かに食われるのを恐れるがあまり、身動きできずに死を待つぐらいだったら、自分でその先へ進んで、自分で食っちゃえば良いワケですよね? もちろん、必ずしも彼のいってることがすべて正しいとは思わないんですけど、すごく示唆的だなって思ったんですね。
スウェーデンでは違法配信が前年比52%減少
――そういえば、日本でクラウド型音楽サービス」としては、かつてNapsterがありました。アメリカではRHAPSODYなど、Spotify的なサブスクリプション型サービスは以前からあったわけですが、なぜSpotifyだけが大成功を収めつつあるのでしょうか?
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これは3点あって、やっぱりストリーミングを感じさせない使い勝手の良さと、iPhoneアプリにいち早く対応したこと、あともっとも大事なことだと思うのが、メジャーメーカーが出資してるなど、音楽業界においてのビジネスルールを守ってきたことだと思います。実際、ストックホルムに行ってSpotifyのスタッフに会ってきましたが、音楽への愛情を強く感じるチームでした。そもそも、違法配信を撲滅するためにスタートしたサービスでもあるんですよね。実際、2010年には、スウェーデンの違法配信が、前年に比べて52%減少したって結果も出てきているようです。
――とはいえ、コールドプレイが新アルバム『Mylo Xyloto』をSpotifyで配信しなかったから、イギリスでのデジタルアルバム販売の新記録を樹立したなんてニュースもありました。
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Spotifyについてネガティブに語るニュースがいくつかありましたけど、あの記事って断片だけ切り取ってる感じがするんですよね。そもそもコールドプレイって、あの新譜以外、全部Spotifyに出してるんですよ。なのであの新譜も、たぶん今後だしてくると思うんですね。そのへんがわりとSpotifyを評価してるところで、ほかの多くの配信系サービスって、たとえば変な縛りとか、結構みんないうんですよ。Spotifyは、アーティストの希望に添うというか、結構融通が利くんですよね。だから、逆にレディー・ガガとか、Spotify先行リリースをやっているアーティストも多いんです。Spotifyのプレミアム会員向けに、全世界リリースの3日前からストリームで聴けるようにするとか。あと最近だとゴリラズは今年10周年だそうなんですけど、特別キャンペーンでラジオ的な番組をSpotify上でやってるんですよ。そのメディアっぽい使い方が、プロモーション効果もあるし、ちょっと面白いなと思ってたりします。
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代表的なクラウド型音楽サービス
すでに欧米では主流になりつつある新しい音楽の楽しみ方、クラウド型音楽サービス。ここでは人気の高いサービスをいくつか紹介する。なお、基本的にLISMOとYahooのサービス以外は現時点で日本での利用はできない。
Spotify
2008年にスウェーデンでスタートした「オンラインジュークボックス型」サービス。
現在、ヨーロッパ7ヶ国に加え、2011年7月からアメリカでもサービスを開始。無料(広告付き/時間制限あり)と有料契約(スマートフォン対応)があり、1,600万曲以上が聴き放題となる。Facebookとの提携が発表され、ソーシャル対応が注目を集めている。
PANDORA
2000年にアメリカ国内向けでスタートした無料「パーソナライズドラジオ型」サービス
曲のメロディやビート、リズムなど音楽のDNAを解析(ミュージック・ゲノム・プロジェクト)し、ユーザーの好みを反映した楽曲を流す。2008年にリリースしたiPhoneアプリとの連携をきっかけにブレイク。登録IDが8,000万人を超える。
iTunes in the Cloud
2011年にアメリカ、北米、欧州、オーストラリアでスタートした「デジタルロッカー型」サービス
iTunesから楽曲を購入すると、同一アカウントであれば、どのApple製品からでもiCloudを通じて楽曲ダウンロードをすることができる。さらに、年間24.99ドルを支払えば、ローカルのライブラリーに登録された楽曲でも同期が可能となる。
Google Music
2011年にアメリカでスタートした招待制の「デジタルロッカー型」サービス。
iTunesにある楽曲やプレイリストを含めてPCにある楽曲ファイルを2万曲までアップロードすることができる(DRM付き楽曲は不可)。使用するデバイス数は無制限。楽曲を簡単にオフラインにダウンロードし、再生することも可能。ベータ期間は無料。
mSpot
2010年にアメリカでスタートした「デジタルロッカー型」サービス。
PC内の音源をクラウドに自動アップロード。WEBブラウザ、iPhone/Andnroidなどでストリーミング再生することができる。歌詞やカバーアートワークなどの表示も可能。アーティストのプロフィールや再生記録の確認もできる。5GBまでは無料。
LISMO unlimited powered by レコチョク
日本で利用可能
2011年に日本でスタートした「オンラインジュークボックス型」サービス。
4大メジャーを中心に洋楽約100万曲が、月額定額1,480円で聴き放題。一度聴いた楽曲は、キャッシュ機能により通信圏外でも、一定曲数を視聴することが可能。ソーシャルサービスと連携し、再生中の楽曲をTwitterやFacebookなどに投稿ができる
Yahoo! サウンドステーション
日本で利用可能
2005年に日本でスタートした「オンラインジュークボックス型」サービス。
人気J-POPナンバーを中心に20万曲を無料聴き放題。パーソナライズド機能はなく、ユーザーが聴きたいチャンネルの番組や、楽曲を選択すると専用プレーヤーが起動する。Macは使用不可。プレミアム会員は、曲のスキップが無制限で広告なしですぐに再生される。

