NEXUS アーティスト・インタヴュー:高橋優 「景気が良くなろうが悪くなろうが人の闇は消えない」 ――高橋優が2013年に歌う意味と理由

賛否両論であってほしい

――NHKの『仕事ハッケン伝』のテーマソングになっている“同じ空の下”という曲もシングルとしてリリースされているわけですが、これは、オファーがあって作った曲だったんですか?

高橋
そうです。

――NHKのプロデューサーからこういう曲を歌ってほしいというリクエストがあったんですよね。それにどう応えようと思いました?

高橋
『僕らの平成ロックンロール②』を作った後だったんで、すごく素直にその話を聞けたんですよ。ストレートに応援歌みたいな曲書いてみようと思ったんです。でも最初は自分の納得いくものが全然書けなくて。

――なぜ納得いかなかったんでしょう?

高橋
応援するってどういうことだろう?って考えたんですよね。「頑張ってんね」と言われて腹立つこともあるじゃないですか。僕はそう言われたくないほうだし、言われたくない言葉を歌にしたって誰のことも応援できないと思って、省いていったんですよね。自分にとって、応援するための言葉ってどういうことだろう?って思って。たとえば「君を思ってるよ」みたいなことも言い方によったらすごく薄っぺらく聞こえるし。何をどういう風に順序立てて言えばいいか分かんなくなっちゃったんですよね。嘘っぽくなるし、薄っぺらくなっちゃうから。結局途中で応援歌を書くことは諦めました。

――大橋仁さんが作ったあの曲のMVが非常に強烈だったんですけれど、あれはどういう経緯で作っていったんでしょう?


高橋
入念な打ち合わせがあったんですよ。大橋さんと僕と。アドレス交換して、メールしあって、僕からのリクエストも聞いてもらったんですよね。大橋さんは「高橋優をドキュメントしたい」って言ってたんですよ、最初。僕が朝起きて、歯を磨いて、朝御飯を食べてちょっとブラブラして、それでスタジオ行くみたいな、僕の一日を追ったドキュメントを撮って、「同じ空の下」にしたいって。大橋さんが僕に寄せてそう言って下さったんですね。「その方がミュージッククリップっぽいでしょ」って。でも、僕がそれをやってしまったら、それこそ「同じ空の下」って曲が内に向いてしまって外に発信することにならない。それじゃあ意味がないから、全く関係ない人が映ってる方がいいと思うって話をしたんですよ。

――そうなんですね。それでああいうMVになった。

高橋
大橋さんもそれでピーンときてくれたらしくて、「じゃあこういうのは?」ってアイディアをくれたんです。僕が最初に言ったのは、OLとかでいいんじゃないかってことで。でも、そこからサラリーマン、OL、僕とは似ても似つかないような仕事をしてる方、仕事してない人は?って話になっていって。そこから、将棋センターとか釣り堀とかで昼間っから黙って釣りしてるようなおじさんをスカウトしてみるのはどうだろうかって話が自然に出てきたんですよね。

――あのMVがあることで、“同じ空の下”という曲の指す領域が広がった感じはすごくありますよね。

高橋
僕もミュージッククリップはすごく気に入ってます。さすがは大橋仁と思うですけど、まあ賛否両論ありますよね。

――でも、ぶっちゃけ、賛否両論あった方がいいと思ってません?

高橋
はい。賛成意見しか聞こえてこないっていうのは恐ろしいことだと思うんですよね。さらに一番恐いのは何の意見もこないことだと思うんで。「まあこんなもんだよね」「普通だね」ってなってしまうのが今の僕にとっては何より恐ろしいことなので。0より、だったらマイナス100の方がいいって思います。

――「ジェネレーションY」っていう曲でアルバムが始まってますよね。国とか世代とか、そういう話で始まってるのも、まずは自分のスタンスを明らかにするみたいなところがありますよね。さらに、社会とか、世代とか、広いテーマを軸にしている。これはどういうことなんでしょう?

高橋
ただ単純に、最近興味あるんですよね。そういう本を沢山読んでたりもして。「ジェネレーションY」っていう言葉も、今年に入ってから知ったし。僕よりちょっと前の世代、それこそ学生運動とかをしてた頃って、今じゃ全く想像もつかないような日本だったわけじゃないですか。一世代前の人達が熱狂した時代の映像とか沢山観たりすると、世代って面白いなって思ったんですよ。その頃の日本を知らないがゆえに、甘ったれたようになってる今の若者が沢山いるような気もするし。でも、僕らのことをゆとり教育が入ってきた世代って言う人もいるし、中途半端な失われた世代だって言う人もいるんですよ。そんな失礼なこともないじゃないですか。そんなこと誰が言えるんだよって思うような怒りもある。で、正直にそういうことを歌にするのはやっぱ余計な批判食らったりするし、偏りがあってまずいんじゃないかって思ったこともあったんですよね。でも、今はその迷いがなくなってしまったっていう。逆に文句大歓迎みたいな。

――なるほど。文句大歓迎なんですね。

高橋
共感を求めたというよりは、やっぱり賛否両論であってほしいと思ったし、「はーん」ってなるより「はああ!?」って言って聴いてほしいっていう。

僕は靴で踏まれて地べたを這いずりまわってる側の人間だから

――そういうアルバムだと思うんですよね。ここまで話してようやく言えるんですけど、このアルバムを聴いて、いらつく人結構いると思うんですよ。「何言ってんの、こいつ?」みたいに。で、これは僕の考えなんですけど、そう思う人がいるのはたぶん2013年今の時代性だと思っていて。アルバムの曲はほとんど今年になってから書かれてるわけですよね。

高橋
そうです。

――2013年の東京に暮らしていて、社会のムードってちょっと変わってきたなって感じてるんですけれど。高橋優はどういう風に捉えている?

高橋
今はあながち悪くないんじゃないと思います。僕らの生活まで良くなってる感じはしてないけど、雰囲気的に今は悪くないんじゃないですかね。

――そうですよね。景気が良くなってる。週末の夜に新宿とか渋谷とか街を歩いてタクシーに乗る人の顔を見ることが多いんですけど、表情が変わってきてる。ここ数年ぐったりしてタクシーに乗る人が多かったんだけど、はしゃいでタクシーに乗ってる人が多くなってる気がする。

高橋
そうですね。そういう雰囲気なので逆に僕みたいな現状を歌おうとするシンガーは必要とされてないんじゃないの?って言われたこともあったんですけど。それならそれでいいかって思うんですよね。僕は今歌いたいことを今歌う、高橋優はすぐ古くなるんだって言われてメジャーデビューしたんですよ。でも、“こどものうた”も、“素晴らしき日常”も、恐ろしいほど古くなってないんですよね。今だって先生が生徒にセクハラするし、家庭内暴力だって起こってる。今年リリースした“(Where’s)THE SILENT MAJORITY?”で「50基の核発電所 年に5000回揺れる列島」って歌ったんですけど。それも早く古くなればいいけど、しばらく、ひょっとしたら僕らが生きている内にはなくならないんですよ、きっと。そういう「高橋優」の歌が早く古くなればいいなって僕もどっかで思ってるんです。「こういうこと歌われてるってことは淀んだ時代だったんだね」って僕が早く過去の人になればいいと思うんですけど。でも今のところ僕が切り取って歌ってるってことは、どれもまだ古くなってないんですよね。

――そうですよね。それに、今言ったように、どうやら景気はよくなっているらしい、と。でも、世の中にはその空気に取り残される人も沢山いるわけで。だから僕はこのアルバムのいらつく感じって、そういうところに起因すると思うんですよ。「オルタナティブ」って言葉は「もう一つの」っていう意味なんですけれど、そういう本質的なところでのオルタナティブだという。

高橋
僕もたぶんそう思う方の人なんだと思うんですよ。やっぱり浮かれてきたら音楽も浮かれてるものが流行ったりするじゃないですか。バブルの時も大体そうだったわけで。でも、景気が良くなろうが悪くなろうが人の闇は消えないと思うんですよ、永遠に。殺人だって原始時代からあったわけで。ほいほい浮かれてタクシーに乗る人達がいる反面で、その靴で踏まれて地べたを這いずりまわってる人も沢山いると僕は思ってるし。どっちかというと僕は靴で踏まれて地べたを這いずりまわってる側の人間だから、ほいほいやってたいやつはやってろって思うんですよね。幸せの本質を僕は探しているし、もっと本質的な喜びとか充実感みたいなものを探っていて。そこで見えてくる疑問とか、「違うだろう」って思うことが、今も沢山あるんですよね、世間に対して。このアルバムはそういう自分をすごくよく出せたものだと思います。

――世の中、景気が良くなると、みんなご機嫌になるんですよね。僕にだってそういうところはあるし。そういう人達からしたら「こんな歌、今の気分じゃない」って思われるかもしれない。でも、それを貫いているのが高橋優だということなんだと思います。

高橋
そうですね。たぶん、自分のそういう音楽は続くと思います。僕、夏目漱石の小説が好きなんですよ。あの方は小説で、プロテストをやってた人だと思うんですよね。世間に対する疑問とか、孤独感とか、おいてけぼり感みたいなものを文章で表現していた。ジョン・レノンも、ボブ・ディランも、ニール・ヤングも、セックス・ピストルズも、みんな「はあ? ふざけんなよ」みたいなことが書かれている歌がずっと残ってて。僕もそういう歌に影響を受けているので。自分自身だって、疑問がなくなったら嬉しいとは思っているんですよ。「ああ、今っていい時代だな」と心から思いたいだけなんですよ。でも、思えないから歌を書く。そういうことなんです。

高橋優

1983年12月26日生まれ。秋田県横手市出身。札幌の大学への進学と同時に路上での弾き語りを始める。2008年、活動の拠点を東京に。2010年4月、デビュー前に“福笑い”が東京メトロCMソングとして大抜擢される。7月シングル『素晴らしき日常』でメジャーデビュー。2011年2月、ニューヨークタイムズ紙に意見広告を掲載。これは日本人アーティストとしてオノ・ヨーコさん以来。2011上半期「福笑い」がラジオチャート邦楽1位になる。2011年4月20日、ファーストアルバム『リアルタイム・シンガーソングライター』はオリコンウィークリー初登場8位を記録。2012年1月18日、シングル『卒業』は初登場9位、 2012年3月14日、セカンドアルバム『この声』も初登場9位を記録。2012年の全国ホールツアーでは2万人動員している。2012年12月26日『僕らの平成ロックンロール②』と、自身初のLIVE DVDをリリース。2013年には2か月連続シングルをリリースし、5月31日より全国ライヴハウス&ホールツアーを敢行中。

www.takahashiyu.com/


3rd ALBUM
『BREAK MY SILENCE』

2013年7月10 日発売
初回限定盤(CD+CD):WPCL-11519 / 3,570円(税込)

通常盤(CD):WPCL-11521 / 3,150円(税込)

【収録曲】
01. ジェネレーションY
02. (Where’s)THE SILENT MAJORITY?
03. 陽はまた昇る
04. 人見知りベイベー
05. 空気
06. CANDY
07. スペアキー
08. 蝉
09. 泣ぐ子はいねが
10. 同じ空の下
11. 涙の温度

[ 初回限定盤特典 ]
「ボツ曲大全集①」(CD)
1. 傍観悲観者
2. 足フェチ
3. ブランク
4. テレビを見ながら

[ LIVE INFORMATION ]
高橋優2013全国ホールツアー
「BREAK OUR SILENCE」


7月27日(土) 福岡 福岡国際会議場メインホール
8月11日(日) 秋田 秋田市文化会館
8月17日(土) 東京 渋谷公会堂
8月18日(日) 東京 渋谷公会堂
8月24日(土) 大阪 オリックス劇場
8月25日(日) 大阪 オリックス劇場
8月30日(金) 北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
9月21日(土) 宮城 仙台市民会館
9月23日(月・祝) 福島 いわきアリオス中劇場
9月27日(金) 広島 広島アステールプラザ大ホール
9月29日(日) 愛知 愛知県芸術劇場大ホール

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