NEXUS アーティスト・インタヴュー:さかいゆう 「20世紀にやり残したポップスのおいしいところを探してる」 ――さかいゆう、グッド・ミュージックの秘密

やはり、この人は抜群のミュージシャンシップの持ち主だ。さかいゆうの約1年ぶりとなるシングル『僕たちの不確かな前途』は、彼の艶のある歌声を活かしたスタンダードなポップソング。レコーディングにはさかいが所属するオフィスオーガスタの先輩でもある山崎まさよし、そして江川ゲンタ(Dr)、中村キタロー(B)の盟友2人からなる「山崎まさよしトリオ」が参加。絶妙なグルーヴ感で甘いメロディを支えている。

新曲や提供曲の裏側から、彼が作るグッド・ミュージックの秘密を探った。

取材・文=柴那典

自分が不安になるくらいのシンプルさを追い求めた

――さかいさんって、基本いろんなことができるタイプの人だと思うんです。そういう人が、こういうスタンダードなポップスの曲調のシングルを選んだというのは?

さかい
まず、シンプルな曲を書きたいっていうのがありました。だから、60年代のオールディーズの感じでトラックを作りはじめたんです。あと、最近すごくセッションがしたかったっていうのはありますね。他の人に弾いてもらうとか、自分が曲だけを書いて詞を他の人に書いてもらうとか、いろんな実験もやってみたかった。僕自身もちょっと新しいことをやりたくて。そのためには土台がシンプルな方が楽しめるんです。

――新しいことをしたかった、というのは?

さかい
ちょうど今のような季節って、期待と不安を胸に抱いてる方が沢山いらっしゃると思うんです。そういう時期に合うような曲を作りたいなというのもありました。自分にとって新しいことをやりたい気持ちもちょうどそれに通じあって。そういう意味では、自分が不安になるくらいのシンプルさを追い求めたくて作りましたね。

3人が一緒に揺れてる。それが欲しかったんです

――今回のレコーディングは、山崎まさよしさんと江川ゲンタさんと中村キタローさんという、「山崎まさよしトリオ」の編成でレコーディングされたんですよね?

さかい
そうです。

――オフィスオーガスタの先輩っていうつながりはあるとして、あの3人にお願いしようと思ったのは?

さかい
やっぱり、セッションしたかったっていうのが一番ですね。そのセッションも、何が起こるかわからないような人たちじゃない人がいいと思ったんで。もちろん、先がどうなるかわからないセッションにもいいところはあるんですけど、今回はそうじゃない方が絶対いいと思った。そこで、デモテープをちゃんと作って、それを聴いていただいて、忠実にやってもらったんです。

――僕も先日山崎まさよしさんのライヴを拝見したんですが、あの3人のグルーヴ感ってすごいですよね。

さかい
そうですよね。バンドでもいいし、パーカッションでもいいし。もちろんヤマさんのギターだけでもいいし。音楽的なんですよね、すごく。

――あの3人で出せる空気感ってどういうところが特徴なんだと思います?

さかい
雰囲気や空気感に安定感があるんです。ビートがめちゃくちゃ安定してるっていうことではなくて、メトロノームを鳴らしながらやっていても、3人が一緒に揺れてるんです。それが欲しかったんですよ。単に安定したビートだったら、自分で打ち込んで作れるわけで。もうちょっと生っぽいものが欲しくてお願いしました。

――で、歌詞は森雪之丞さんに提供いただいたんですよね。森雪之丞さんは前のアルバムの“サンバ☆エロティカ”からですが、あのときと今回でお願いの仕方みたいなのは変わりました?

さかい
いや、変わんないですね。「このメロディで、こういうテーマで、こういう風にしていただきたいです」っていうことでお願いしました。雪之丞さんはメロディをふまえて、譜面を見ながら歌詞を書く人なんですよ。だから、「こういう風にサビで開ける感じ」とか、そういうことを伝えなくても曲調にあった歌詞になるんです。

――こういう風に、作詞をしてもらって、レコーディングもセッションで作るっていうスタイルはやってみてどうでした?

さかい
得るものはすごくありました。これが自分一人でやるときに糧にもなりますし。やってよかったなって思います。

世間的に新しいことじゃなくて、自分がステップアップするために

――さきほど、「新しいことに挑戦したかった」ということを言っていましたよね。歌詞のテーマも「新しい場所に踏み出す」というものですが、それはどういうところから?

さかい
そこはあんまり深く考えてなかったです。音楽によって自分も元気になりたい、というくらい。それに、結局作ったのは別に真新しいサウンドじゃなくて、普通のグッド・ミュージックですからね。まあ、山崎まさよしトリオに頼んでる時点でグッド・ミュージックになるっていうのはわかってましたから。彼らはアーシーでブルージーな音楽をポップにアレンジするのが得意だから、そういうよさが出たなと思います。それに、僕も自分がやってきたキャリアでこういう曲は必要だったかなとは思いましたけど。

――「自分のキャリアの中でこういう曲は必要だった」というのは、どういう意味合いにおいてそう思ったんでしょう?

さかい
それはね、何年後かに振り返んないとわかんないんですよ。今やっとファーストシングルがなんであんな感じだったのかなって、なんとなくわかるぐらいの感じだから。

――ファーストシングルの“ストーリー”の位置づけが今になってわかったというのは?

さかい
あの曲は、それまでずっとブラック・ミュージックをやってたところから8ビートの曲をやりたくて作った曲なんですけれど。でも、最近気付いたのは、あの曲、中途半端なテンポなんですよ。BPM110くらいのテンポって、歌だけ聴かせるようなテンポなんですよね。ラップも入れづらいし、リズムも取りづらいし、踊りづらいしノリづらい。実は、ミュージシャンが一番嫌がる難しいテンポなんです。

――ポップスのワクワク感とかを出すにはちょっと遅いってこと?

さかい
いや、むしろポップスのワクワク感しか出ないテンポなんです。J-POPに特有のテンポ。そのことが、当時はわかんなかったんですよ。90年代に流行った曲って、そのぐらいのテンポが多くて。「♪何から伝えれば〜」(と、“ラブ・ストーリーは突然に”を歌う)もこのぐらいのテンポだし。これ、踊れないテンポでしょ?

――ダンス・ミュージックにならないってことだ。

さかい
そう。レイドバックするほどテンポがゆったりしてるわけでもないし、ノッてジャンプできるほど速くない。今振り返ると、それまでテンポ90とか95ぐらいのヒップホップとかブラック・ミュージックをポップスみたいにアレンジしたいって思ってた時期が3年ぐらいあったんです。それが終わって、8ビートの曲を作りたいと思ってた、それだけなんですけど。

――なるほど。それはすごく興味深かったです。

さかい
だから、世間的に新しいことじゃなくて、自分がステップアップするために常に自分の中で新しいことをやりたいんですよね。だから、そこはあんまり時代に左右されるようなところではないと思います。もしかしたら次はブルースになるかもしれないし。

20世紀にやってたことを受け継ぎながら、新しいことを探している

――カップリングのお話もお伺いできればと思うんですが、まず“ONE WOMAN”はどういう経緯でできたんですか?

さかい
これは千趣会という会社から曲を依頼していただいて、「女性を応援する」というテーマで書きました。

――なるほど。そういう風に依頼を受けて、テーマありきで曲を作るほうが得意だったりします?

さかい
得意ですね。そのほうが簡単です。何でもいいから思いを綴ってほしいって言われたら、1曲で終わっちゃう。別に、言いたいこともそんなにないんですよ。別に目立ってやろうというつもりもないし。

――この曲も、スタンダードなポップスからモチーフを借りてきてるようなところもありますね。

さかい
“ONE WOMAN”も、言ってみれば、20世紀にやってたようなことですからね。それを受け継ぎながら新しいことを探している。メロディとかハーモニーとか、そういうポップスのおいしいところを追求した時代が20世紀だとしたら、今は打ち込みの音色とかそういうところの追求に変わりつつある気がしていて。でも、僕は、まだ20世紀にやり残したポップスのおいしいところを探してるところがあるんですよね。そこにまだ全然可能性はあると思うし。

――“100%”は小泉今日子さんに提供した楽曲のセルフカバーですが、この曲を作った経緯もそれがきっかけだったんでしょうか。

さかい
いや、これは、それよりずっと前にできてました。もう5年ぐらい前かな。女性目線で書いちゃったから、なかなか自分で出すのもおかしいなと思って、誰かに歌っていただいたらいいなと思ってたんです。で、たまたま歌っていただく機会に恵まれたんですね。


さかいゆう

2009年にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。R&Bをベースとしたビートの効いた楽曲と、あふれ出るポップセンスで徐々にファンを獲得。ライブでは圧倒的なパフォーマンスとその歌声で観客を魅了している。 2012年5月には話題のシングル「君と僕の挽歌」を含むセカンドアルバム「How's it going?」をリリース。11月にはロンドンにて、昨年のニューヨークに続き、2度目の海外公演を成功させた。2013年4月24日に1年ぶりとなる ニューシングル「僕たちの不確かな前途」をリリース。

http://www.office-augusta.com/sakaiyu/


New Single
『僕たちの不確かな前途』

期間生産限定盤[CD+Bonus CD]
AUCL-127〜8 ¥1,890(税込)
*ボーナスCD「Sakai Yu Acoustic Live Selection」付属
2013年12月末迄の期間生産限定

通常盤:AUCL- 129 [CD] ¥1,223(税込)

[CD収録曲]
■DISC-1[CD]
(期間生産限定盤/通常盤共通)
M1.僕たちの不確かな前途
 [作詞:森雪之丞/作曲・編曲:さかいゆう]
 〜テレビ朝日「ゴーちゃん。GIRL'S TV」エンディングテーマ〜

M2.ONE WOMAN
 [作詞:森雪之丞/作曲・編曲:さかいゆう]
 〜「ウーマン スマイル カンパニー 千趣会」イメージソング〜

M3.100%
 [作詞・作曲・編曲:さかいゆう]※セルフカバー

M4.CREEP (Original:Radiohead)

M5.僕たちの不確かな前途 <Backing Track>


■DISC-2[Bonus CD]
(期間生産限定盤のみ)
「Sakai Yu Acoustic Live Selection」
M1.How Beautiful (Live ver.)

M2.ウシミツビト(iTunes Live from Tokyo ver.)

M3.train(iTunes Live from Tokyo ver.)

M4.ストーリー(iTunes Live from Tokyo ver.)

M5.君と僕の挽歌(Live ver.)

インタヴューArchives