NEXUS アーティスト・インタヴュー:パスピエ 話題沸騰「パスピエの素」をまとめてみた

去年から妙なクセになるイラストを施したジャケットや、トリッキーな音楽なのにどこか人懐っこいメロディが話題になり、ロック好きからアニメオタクまで、様々な人達のBUZZとなっているパスピエ。そんな、予想を超えるスピードで蔓延している「パスピエ・ウィルス」の決定版となるのが、ファースト・アルバム『演出家出演』だ。

既にiTunesチャート1位を含め、様々なチャートで話題になっているこのアルバムは、新しいバンド音楽の鍵を握っていると言うべき、最高のポップ・アルバムである。

時にエキセントリックに、時に静かな海の波のように、変幻自在のメロディを確かな演奏スキルで響かせ、そこにコケティッシュかつラジカルな紅一点のヴォーカルが乗っかって独自のポップを描く。正統派なバンド力と音楽イメージを持っているからこそ、本気でぶっ飛んだ音楽を作れたり、どれだけ複雑な音楽構造の曲を作っても、それがリスナーを選ばないポップなものになる。そういった頼もしい新たなバンド感を、パスピエは持ってる。

今回はそんな彼らの「音の素」というべきルーツを具体的なアーティスト、アルバムとして挙げてもらった。参加してくれたのはヴォーカルと作詞&イラストを手掛ける、大胡田なつき。そして鍵盤と作曲を手掛ける、バンドのリーダー、成田ハネダ。予想通り、時代や世代の壁をあっさりと擦り抜けた独自のセレクトが並ぶ、とても興味深い「パスピエの脳みそまとめ」となった。

是非読んだあとで、パスピエのみならず、ここで挙がった10枚の名盤も聴いてみてください。

取材・文=鹿野 淳

パスピエ

大胡田なつき → 小川美潮『4to3』

小川美潮 4to3

――今回のNEXUSのインタヴューは、パスピエのルーツ、元になっているものは何なのかというのを探ろうと、大胡田なつきさんと成田ハネダくんそれぞれに「人生の5枚」を持ってきていただいたという企画です。というわけで、まずはありがとうございます。

成田
とんでもないです。

――交互に紹介していただこうと思うんですが、まずは大胡田さんから。小川美潮さんの『4to3』という作品を挙げていただいてるんですが、これはどういう想いが?

大胡田
よしもとばななさん原作の『つぐみ』という映画を観たときに、エンディングで流れていた曲が、小川美潮さんの“おかしな午後”だったんです。今でも一番好きな曲で、その曲が収録されているアルバムが『4to3』です。

――子供の頃だったんですか?

大胡田
そうですね。小学校6年生くらいの頃でした。その頃は、音楽というと両親が聴いている音楽を一緒に聴くくらいの感じでした。

――確か、かなりの音楽家族で育ったんですよね。

大胡田
母が教師で音楽を教えていましたし、母の妹も音楽教室でピアノやエレクトーンを教えていたので、自然とわたしもピアノを習うようになりました。なので、演奏するという行為はとても近くにあったと思います。といっても、今やっている音楽のようなポップなものではなくて、クラシックピアノでしたけれど。

――家の中で、テレビで歌謡曲が流れてくると、「こんな俗物の音楽は聴いちゃダメだ」的な?

大胡田
そういう教えとかはなかったんですけど、聴き慣れて興味が向いたのが70年代〜80年代の音楽だったんでしょうね。私、小さな頃、変に格好をつけたがるようなところがあって、周りの子たちとはちょっと違う音楽を聴いてるのよ!みたいな(笑)。

――ははははは!

大胡田
大人と「そういうのが好きなんだねー」って話が通じることが嬉しかったりして。歌謡曲と呼ばれていた歌は今も好きですね。あと、荒井由実さんも好きでよく聴いていました。

――子供の頃に小川美潮とか荒井由実さんを聴いていても、友だちとの共通言語にならないですよね。

大胡田
そうかもしれないです。でも、友達同士で音楽の話をする、ということがあまりなかったような……。あ、でも、流行歌でいうとT.M.Revolutionはよくよく聴いていましたよ!

――T.M.Revolutionは何がよかったの?

大胡田
私、その時に好きな男の子がいて、その子がT.M.Revolutionのことを好きだったんですよ。曲を知っていたらお話できることが増えるなー、って(笑)結果、わたしもT.M.Revolutionを好きになったんですけれど。音楽を聴き始めるきっかけなんてなんでもいいと思うのよね。
成田
そういうの、多いよね。好きな人の好きな音楽を好きになる。
大胡田
ははは、そうですね。影響されやすいんですよ、たぶん。

――思い出引きずる系?

大胡田
物は言いよう。という感じにしておきます。

成田ハネダ → おしゃれテレビ『おしゃれTV』

おしゃれテレビ『おしゃれTV』

――わかりました。では、成田くんの一枚目いきたいんですけれども。『おしゃれテレビ』は、いつ聴いたんですか?

成田
これはパスピエの一つ前のバンドを初めて組んだ頃ですね。そのバンドでレコーディングすることになったときに、エンジニアの人でこういう80年代ジャパニーズ・ニューウェーブが大好きな人がいて。その人が「こういう面白い曲があるんだけど、たぶん好きだと思うよ」ってレコードで聴かせてもらって。その時に衝撃を受けて。「なんだこれは?」って思って。それでいろんなCDショップを探して手に入れたって感じですね。

――これを聴いてる知り合いの方がいたんですね。

成田
そうなんです。

――これはバンドじゃなくて、坂本龍一とか鈴木さえ子さんが参加している遊びユニットでしょ?

成田
そうです。野見祐二さんという人のユニットなんですけれど。ただ、初めて聴いた時はそういう前情報も何もなく「これ、なんだろう!?」って思って。僕はいろんなアーティストからインスパイアを受けて曲を作ることが多いんですけれど、パスピエの“電波ジャック”って曲は、これに影響を受けて作った曲です。

――当時聴いて、何がよかったんでしょう。

成田
後で話すトーキング・ヘッズにも通じるんですけど、音楽の中に民族っぽさがあって。しかも電子音楽なのに、民族っぽさ、アジアっぽさ、ある種の土臭さがあるっていうのに惹かれたんだと思います。好きになったものに対して後から理由を探るパターンが多いので、最初はただただ衝撃を受けた感じだったんですけど。

――当時、テクノの世界にはクラフトワークがいて、その時点で電子音楽って完成してたんですよね。だから、そのフォロワーとして始めた電子音楽家は、突き詰めれば突き詰めるほどクラフトワークに戻るしかない。でも、それじゃ何の進歩もないし、何のムーブメントも起こらないんで、そこで見つけたのが黒人音楽だったんですよね。それで「ゴー・トゥ・アフリカ」という流れになっていった。

成田
そうですよね。でも、その頃はそういうムーブメントの成り立ちも何もわからなかったんです。自分がそれまでクラシックしかやってこなかったんで、そことの共通言語が見出だせるものを好きになっていったパターンが多かった。この曲にはそういう風にも感じられたんで。

――このアルバム、久しぶりに聴いたんですけど、今聴くとゲーム音楽にも通じるような感じもありますけれど、その辺はどうですか?

成田
ゲーム音楽は聴いてなかったですね。ゲームもしないし、アニメも全然観なかった。パスピエのことをアニメとかゲーム音楽っぽいって言われることはあるんですけど、僕はそれこそジューシィ・フルーツとか、80年代ニューウェーブを聴いていただけで。アニメ音楽とかゲーム音楽は全く通ってないんですよ。

――ほんとに音楽一直線で育った結果、クソ真面目を通り越してバカやってる音楽が好きになっちゃった。

成田
ははは! そうです。ないものねだりというか、それまでの自分がやってこなかったことなんで、新鮮でした。

大胡田なつき → Steely Dan『彩(エイジャ)』

Steely Dan『彩(エイジャ)』

――大胡田さんの2枚目にはスティーリー・ダンの『彩(エイジャ)』が入ってますけど。もしかして、これも好きな男性から知った?

大胡田
あはは、違います。これは、私が初めてバンドを組んでライヴをした時に、PAの方に「スティーリー・ダンみたいなバンドになってほしい」って言われて、「ちょっと聴いてみて」って渡されたんです。最初に聴いたのはベストアルバムだったんですけど。このアルバムが特に好きだというより、スティーリー・ダンだったら『彩(エイジャ)』がわかりやすいかなと思って持ってきました。名前も好きで。

――要するに、これが代表作だからで、スティーリー・ダン自身がよかった、と。

大胡田
そうです。

――「スティーリー・ダンみたいなバンドになってほしい」って言われるバンドって、どんなバンドだったんでしょう?

大胡田
当時組んでいたバンドでは、わたしが作詞・作曲・アレンジをしながら鍵盤を弾いて歌っていました。曲によって別の楽器の人を入れたり、メンバーを代えたりしていたのでスティーリー・ダンというワードが出てきたんじゃないですかね? 恐れ多いんですが(笑)

――じゃあ、初めてスティーリー・ダンを聴いてみて、どうでした?

大胡田
すごく頭がいい人が作ってるんだろうなって思いました。完璧主義で「寸分の狂いも許さない!」みたいな。バンドの形式らしいんですけれど、ユニットみたいですよね。一流のスタジオ・ミュージシャンを集めて、理想の形にならなければどんどん切り捨てていくみたいな。

――結局二人組になってますからね。

大胡田
そういう風に、一人とか二人だからこそできることがいろいろあるなって、スティーリー・ダンの制作ドキュメンタリーのDVDを観て思いました。私は今バンドをやっていて楽しいですけど。

――こういうのを聴いて、お洒落だなって思う感じでした? 当時はすごくお洒落な音楽だったんですけど。

大胡田
お洒落って感じはしなかったかもしれない。肉体的というよりも、構築的な作り方だって思って、興味を持って聴いてましたね。

――俗に「知的不良」って言葉がありますけど、彼らもそんな感じですよね。音楽は素晴らしいけれど、周りの人間にとってはたまったもんじゃない、っていう。

大胡田
まさにそうですよね。知的な不良(笑)。

――大胡田さんは知的不良じゃないですか?

大胡田
私ですか? 私はもう、何も考えていないに等しいです。
成田
そうですね。何にも考えてないです。

――僕、「私は何も考えてないです」って言っていて、本当に何も考えてない人はこの世界、生きていけるわけないって思ってるんですけど。

大胡田
ふふふ。でも、私、最初に「大丈夫、いける」と思ったことって大体大丈夫なんです。これ、説明が難しいんですけれど。だから、やると決めたら何も考えず、それに集中できるんです。と言いつつ、周りのおかげだと思ってますけどね。絵ですとか、文章、歌、やりたいと思ったことを自由に学ばせてもらってきたので。それで今、音楽をやっていきたいと思っていたら、成田ハネダと会えてパスピエという表現の場を作れましたし、運がよいのかも。

――曲がり角を曲がるときにパッと判断する、その才能がある感じじゃないですか?

大胡田
ありますかね? あるかな? だとしたら、この先も続いていってほしいですね。
成田
そうしてもらわないとね(笑)。

パスピエ

21世紀流超高性能個人電脳破壊行歌曲 2009年に東京藝大卒のキーボード、成田ハネダを中心に結成。
卓越した音楽理論とテクニック、70s〜00sまであらゆる時代の音楽を同時に咀嚼するポップセンス、ボーカルの大胡田なつきよるMusic Clip やアートワークが話題に。
2011年11月に発売した「わたし開花したわ」、2012年6月に発売した「ONOMIMONO」がロング・セールスを記録中の中、2013年1月にiTunes ニューアーティスト2013曲「名前のない鳥」、2月には「ON THE AIR」と配信限定シングルを連続リリース。
続く3月には1stシングル「フィーバー」をリリース。4月に初となる自主企画「印象A」を東京、大阪で行い完全ソールドアウトの中、2013年6月12日に1stフルアルバム「演出家出演」のリリースを発表。

http://passepied.info/


1stアルバム『演出家出演』

2013年6月12日発売
初回限定盤 スペシャルパッケージ仕様
WPCL-11446 / 2,600円(税込)

通常盤:WPCL-11424 / 2,400円(税込)

■収録曲
01. S.S
02. 名前のない鳥
03. フィーバー
04. シネマ
05. ON THE AIR
06. くだらないことばかり
07. デ・ジャヴ
08. はいからさん
09. △
10. ワールドエンド
11. カーニバル

【ライヴ情報】
初のワンマンツアー
「パスピエ TOUR 2013 “印象・日の出”」
開催決定!


10.26(土) 大阪・梅田 CLUB QUATTRO
10.27(日) 名古屋・ell.FITS ALL
11.02(土) 東京・LIQUIDROOM

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