NEXUS アーティスト・インタヴュー:きのこ帝国「たとえ嘘だったとしても、それがたった一つだけでも、大事なものを見つけたら、少し生きやすくなる」ーーきのこ帝国、飛躍の新作『フェイクワールドワンダーランド』の核心

きのこ帝国が、2枚目のフルアルバム『フェイクワールドワンダーランド』をリリースした。

すでにシングルとしてリリースされ大きな反響を巻き起こしている「東京」を筆頭に、ニューアルバムは、バンドの大きな飛躍を形にした一枚。数々のグッドメロディが真っ直ぐに形になっている。ギターノイズの向こう側にあった歌心があらわになっている。

新作について、そしてそこから彼女自身が目指すこの先の音楽人生について、佐藤に語ってもらった。

取材・文=柴那典




肯定的なムードを描きたい

――アルバム、ほんとに素晴らしいです。

佐藤 ありがとうございます。

――“東京”という曲が届いた時点で「次のアルバムはいい作品になるな」という予感があったんですけれども。作っている側としてはどうでした?

こういうアルバムにしたいっていうテーマが明確になった曲ではありましたね。

――あの曲はどういうきっかけで出来ていったんでしょう?

『ロンググッドバイ』では別れとか日常だとかをテーマにして作っていたんですけど、その後何を描いたらいいか考えていって。漠然と、人と出逢ったこと、それから肯定的なムードを描きたいというのがあったんです。ただ、それを曲にしようとしても、なかなか実感として実を結ばない部分があって。そんな中で、ポンと、いきなり“東京”ができた。「ああ、これは言いたかったことだな」って思って。そこからはスピーディーに進んでいきました。

――表現したいことが先にあって、ビビットな形で実を結んだのがあの曲だった。

でも、決め込んで作ろうっていう感じではなかったんです。最初のあのワンフレーズが出来て、その時は別に“東京”というタイトルは付けようとも思ってなくて。ただキャッチーでメロディアスなフレーズが出てきたなって単純に思って。この曲をきのこ帝国というバンドでやることはアリかナシかはまだ自分の中で半信半疑な部分もあったんです。でも、とりあえず特別な何かを持っている曲になりそうだって思って最後まで仕上げてみようと思って。

――その後に“東京”というタイトルがついた。

これはつまり街が背景になっている曲だな、東京のことについて歌っている曲だなって最後に気付いて。それでメンバーに聴かせて「ぜひバンドで演奏しよう」という話になって、そこでようやくちょっとした自信が生まれたんです。

――できた瞬間に「これはいい曲ができた」と思ったわけじゃなかったんですね。

メンバーに聴かせるまでは半信半疑でしたね。何かしらの力は感じるけど、良し悪しがわからなくて。ただ、たまたま自分の理想としていたムードと上手くタイミング的にもフィットしたなっていう感触があった。ある種、奇跡的な曲だなと思います。

――シングルも出て、いろんな反響を巻き起こしながら徐々に広まりつつある。この曲が知れ渡っていくのをどういう感触で捉えています?

普通に嬉しいですね。もうちょっと、ひねくれた捉え方をする人もいるのかなと危惧していたんです。でも、逆に予想を上回るほど、素直に曲を受け取って「いい」と言ってくれる人が多くて。そこに感動したという感じです。

音楽人生の原点に立ち返って考えることが多くなってきた

――で、このアルバム『フェイクワールドワンダーランド』。“東京”という曲は象徴的だし、すごく肯定的なムードの開けた作品になったともうんですけれど、ただ単にそのこと自体が素晴らしいっていうだけじゃなくて。きのこ帝国っていうバンドが、どんどん音楽的に豊かになってきていると思うんです。すごく深いものをちゃんと描こうとしている。

それはすごく嬉しい感想ですね。メンバーも喜ぶと思います。

――そういうアルバムだと思うんですけれども。全体の構成はどのようにイメージしていったんですか?

制作が急ピッチだったということもあって、とにかく曲を揃えてレコーディングしようと作っていって。最終的に曲が出揃ってから曲順を考えたんです。それも、サウンドの聴感上での心地よさだったりっていうフィジカルな面で並べることが多くて、精神論的なことって、実は後付けなことが多くて。曲順に関しては、まず耳で聴いて気持ちいいものっていうのを意識しています。

――聴感でいうと、今までになく歌にスポットライトが当たっている感じがします。そういう意識もあった?

そうですね。曲の強度、メロディの浸透しやすさだとかは曲を作っていく中で一番意識したポイントではありますね。

――『渦になる』とか『eureka』の頃って、音に包まれるようにして歌っているような感じがあって。でも、今回は明らかに前に出てきている。

曲がそうさせたんだと思います。曲に導かれるままにアレンジしていったと思うので。曲が変わっていったっていうのがキーポイントであるとは思いますね。

――今回、そういう風に曲が変わっていった理由、キーポイントはどういうところにあったんですか?

自分はもう今年で26歳になるんですけど、音楽人生を考えて「自分が最初に音楽でやりたかったことって何だろう?」っていうことと、「最終的に辿り着きたい音楽って何だろう?」っていう、それぞれの原点に立ち返って考えることが多くなってきたんです。それを考えた時に、少し前まではサウンド寄りだった面もあると思うし、それも趣味的な部分で好きなんですけど、自分が最初にやり始めたきっかけだとか最終的なゴールは、そこじゃないと思って。

――そこじゃない、というのは?

もともと、自分は音楽しかやれないと思っていて。音楽だったら他者と関わりを持てるんです。単純に、その関われる人たちの自分の半径を広げていきたいっていうだけの話で。先を見た時に、音楽でしか自分が出来ないことがある。というのは、たとえば自分と価値観の合わないタイプの人、ただ喋っているだけじゃ話も合わないしケンカになるかもしれない人とも、音楽なら、根本的な感情のところで共感しあえるかもしれない。音楽をやることで共通項を見出せるかもしれない。だったら、自分の人生はそういう音楽をやれたらより豊かなものになると思って。そういうこと自分はやりたかったし最終的にやりたいんだなって気付いて。そこからは、曲の書き方が変わっていきました。

――自分の原点のところっていうと、具体的には何歳くらいに遡ります?

記憶があるのは小学校の頃ですね。10歳くらいだったと思います。

――自分にとって音楽が1番大きなものになるきっかけって、振り返るなら?

自分の家で一人でCDの真似して歌っている時が一番意味を見出せたというところがあって。それ以外は、自分にとっては難解なものだった。家のことだったり、学校のことだったり、いろんなことが難しくて。勉強は出来ましたけど、やっぱり人間関係のことが難しくて。でも歌っているときが何より楽だったんですよ。それが音楽への執着の始まりの地点ですね。で、中学生の時に初めて歌を聴いてもらう機会があって、「あなたはそんな素晴らしい面を持っていたのね」みたいなことを先生に言われて。自分が好きなことが他人から見てもいいものだというのがすごく嬉しくて。それで自分は音楽をやっていきたいと思ったんです。

――その時にやろうと思っていた音楽はロックバンドだった?

いや、全然違います。シンガーソングライターが好きだったので。J-POPの中でも、ちょっとR&Bっぽいの要素があったりするような、ポップソングですね。

――そういうポップソングが好きな自分と、きのこ帝国のバンドの自分と、それが共存しているという感覚が生まれてきた、という?

やりだした時から自分の中では共存していたんですけどね。でも、聴く人にとってはそうじゃなかった。根本的な面では、バンドがやってること、やりたいことは実はそこまで大きくは変わってないと思います。聴かせ方が違うっていうだけだと思います。

きのこ帝国

佐藤(Vo、G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の四人組。2007年結成、2008年から本格的にライブ活動を開始。ポストロック、シューゲイザーに影響を受けたサウンドで下北沢、渋谷を中心にライブ活動を展開中。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし、2013年2月に1stフルアルバム「eureka」、同年12月に5曲入りCD「ロンググッドバイ」を発売。
2014年2月に初の東京・渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブを成功させる。同年9月に100円シングルとして「東京」を先行リリースし、10月に2ndフルアルバム「フェイクワールドワンダーランド」を発表。

オフィシャルサイト


2nd Full Album
『フェイクワールドワンダーランド』

2014年10月29日(水)発売
UKDZ-0159 / 2,800円(+税)
[ 収録楽曲 ]
01. 東京
02. クロノスタシス
03. ヴァージン・スーサイド
04. You outside my window
05. Unknown Planet
06. あるゆえ
07. 24
08. フェイクワールドワンダーランド
09. ラストデイ
10. 疾走
11. Telepathy/Overdrive

「CITY GIRL CITY BOY」

2015年1月15日(木) OPEN 18:15 / START 19:00
会場:大阪・梅田CLUB QUATTRO
チケット:前売 3,500円(D代別)
お問い合わせ:GREENS(06-6882-1224)

2015年1月21日(水) OPEN 18:15 / START 19:00
会場:東京・赤坂BLITZ
チケット:前売 3,500円(D代別)
お問い合わせ:VINTAGE ROCK std.(03-3770-6900)


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