NEXUS アーティスト・インタヴュー:安藤裕子

安藤裕子のニューアルバム『勘違い』は、とても正直かつとてもダイナミックに彼女の今と僕らの今を歌い鳴らした音楽アルバムだ。
彼女は出産という今まで体験したことのない圧倒的なリアリティを経験し、母となった。そして日本は未曾有の震災に襲われ、今もその失った世界を彷徨っている。いろいろな事情、いろいろな喪失、いろいろな誕生。いろいろないろいろと共に日々を彩っている僕らのいろいろを時に淡々と、時に強く激しく音楽化した『勘違い』は、人間の不安定さが生んだ音楽という完成品、そのものだ。
安藤裕子の音楽は、論理化や数値化できないものに満ち溢れている。それは彼女が音楽に「想いを想いのまま」託して歌っている、強い想いのアーティストだからだ。いつの時代だって、これだけ情報処理に長けた時代だって、僕らは理解し難い喜びと哀しみと奇跡をたくさん抱えながら生きている。安藤裕子の音楽は、それが生きていることなのだと、今日も教えてくれる。
素晴らしいメロディ、素晴らしい心からの歌唱、素晴らしいミュージシャンの奏でる音、素晴らしいアレンジと化学反応。『勘違い』は音楽が生んだ最高の勘違いである。


取材・文=鹿野淳  構成=柴那典

生々しい感じがする。自分の中身を出そうとしている感じがあります

――世の中の紆余曲折とご自分の中の紆余曲折がそのまま音楽になっているような、非常にダイナミックなアルバムだと思いました。

安藤
ありがとうございます。実は、まだ実感がないんです。未だによくわからないというのが正直なところですね。ワタワタしながら作っていたというか、全てのことを必死に受け止めながら、音楽を作る作業で息抜きをしていたようなところがあって。ただ、自分としては、今までの作品よりガードを作ってる暇がなかったせいか、少し生々しい感じがするかな。自己顕示欲があるというか、自分の中身を出そうとしている感じがありますね。

――とはいっても、今までも作られた計算式を当てはめていくような作り方のアルバムは一枚もなかったと思うし、感情の起伏が音楽になっていたと思うんですよ。

安藤
うん。そうですね。

――でも、この作品では、まず出産という人生の大きな転機があったということが、強く刻まれていますよね。

安藤
出産もそうだし、大きな分岐点がいろいろとあったと思います。20歳くらいに音楽を作り始めて、仲間ができて、スタジオで音源を作るという日常をが10数年続けてきて、『chronicle.』というアルバムを作っている時に、だんだん安藤裕子の音楽の土台のようなものが固まった感覚と、ここから自分の人生に変化がくるんだろうなという予感があったんです。だから『chronicle.』というタイトルをつけたし、次はベスト盤を出そうと思った。出すのは早いという人もいたけど、そこでひとつの音楽が終わって、ベスト以降が自分の人生になる気がして。

――音楽に振り回されるのではない、音楽と自分の人生が心地よくシンクロしていく新しい道を目指す。

安藤
でも、2010年くらいに体調を崩してしまって。『JAPANESE POP』を作っている時に、自律神経も含めて身体が動かなくなったんですよ。そうすると精神的にも落ちてしまって。歌うということすら、よくわからなくなったりした。アルバムを作るのは楽しいんですよ。でも自分自身はどんどん落ちていく。お休みをもらって外国に旅行に行っても、それが止まらない。その頃に生まれたのが“永すぎた日向で”と“エルロイ”。あそこが、肉体と精神的には一番つらかった気がします。……私、平穏無事に生きていたいタイプなんですよ。だから、変化がないようにやってきたけれど、でも、結局のところそれも崩れてきて。新しい出会いって、ワクワクするけれど、変化もあるからイヤだったんですよ。変化には離別も含まれるから。そういうのを抱えきれなくなったところもあるだろうし。音楽的にも、自分が上手になってきてる感覚があって、そこにも不安もあったし。

――新しい音楽を生みだす上でのプレッシャーや、納得いかない部分というのがあったんですか?

安藤
それは逆かな。するっと上手く成長できてる自分が怖いというか。『JAPANESE POP』は、すごくよい作品だったと客観的に自分で思ってるんです。出来上がった音源も旅先に持って行って聴いてたし。そこで、自分自身はグレーなんだけど、音楽を聴くと色が見えるが感じがする。『ありがたいな』と思うと同時に、『上等なもんだな』と思って。でも、なんか、自分がそこに追いついてない感じがあった。説明ができないんだけど、いろんな不具合があったんだと思うんです。たとえばイベントに出て歌うと、あからさまに声が出なかったりする。そうなると、歌うことも怖くなっていく。そういう脆さがあるのはつらかった。なんでそうなっちゃったのかはわからないんですけれど。で、それまで自分から人前に見せなかった感情の曲が出てくるようになったし、それを形にしないといけないんだろうなと思っていて。それが“エルロイ”をやっていた頃です。

どこかで止めてしまいたいと思っていた

――するっとしてない曲ですよね、“エルロイ”も“永すぎた日向で”も。

安藤
“永すぎた日向で”は終焉を歌っているんですよね。これがリード曲とか表題曲になるかなって思っていたんです。それは、これを表に出したら自分を終えられるから。そういう安心感が欲しかった。どこかで止めてしまいたいと思っていたから。

――それは具体的に、アーティストとしての活動をやめたいというところまでいっていた?

安藤
やめたいとは思ってないけど、止まってしまえば楽だなって思っている部分はあって。とにかく止まりたかった。だから2010年が終わって、しばらく休みをもらって。知らない外国に旅に行って。でも、止まらない。日本に帰っても、何かザワザワしている。「なんだろう、このザワザワは?」って思っていて。そうしたら地震もあったし、自分も妊娠をした。……それまで、体調が本格的に悪かったから、妊娠できないと思ってたんですよね。だから、すごく嬉しかったんですよ。私、子供の頃からの夢が「お母さん」だったから。「子供、できるんだ」って思って。でも、それと同じ頃に、私の育てのおばあちゃんが倒れちゃったんです。地震の恐怖によって癌が広がってしまって。最初は「早く帰りたい」とか「ラーメン食べたい」とか言ってたんだけど、余震が来るたびに悪化してしまう。で、自分に赤ちゃんができたことをまだ伝えていなくて。母親は「家に帰ってからにしたら」って言ってたんですけれど、「言ったほうがいいかもね」という風に変わっていって。それで、私が変化の兆しを自分で作ったから、やっぱり引き換えにおばあちゃんが死ななきゃいけなくなったと思って……。いつもそうなんですよ。何かが変化したら、引き換えに何かをとられる。だから、変化が嫌いだし、嬉しい半面、自分を責めるところもあって……。でも、おばあちゃんに言ったら、手だけ動かして喜んでくれた。そういう中で作業していたから、音楽は私にとっての息抜きだったんです。

――うん。

安藤
地震の報道でも、毎日家族を失う人が画面の向こう側で訴えていた。泣けない人がいたんですよね。泣けないまま、自分の手から津波で奥さんと子供が持っていかれたって語っているお父さんがいた。それを見て、すごく悲しかったんです。ただ家族を失うだけじゃなくて、無理やり剥ぎ取られている人が沢山いる。私は夜な夜な一人で泣けたけど、その人は泣けないんだと思うと、私はみんなに、みんなに泣いて欲しかった。普通の暮らしに戻って欲しかった。……その時に作っていた曲が“地平線まで”という曲だった。これは人に頼まれて作っていた曲だけれど、この曲を形にして、元の暮らしには一生戻れないとしても、普通の暮らしに戻れることを手伝える何かを作りたかった。だから、お金を作りたかったんです。大きいお金を作りたくて、それでみんなに協力してもらってチャリティCDを作った。

安藤裕子

1977年生まれ。03’年にミニアルバム『サリー』でデビュー。日本酒のCMで話題となった『のうぜんかつら(リプライズ)』を含む、2ndアルバム『Merry Andrew』が多くの人の心をつかむ。07’年10月には、映画『自虐の詩』主題歌として、“海原の月”を書き下ろし、大きな話題に。4thアルバム『chronicle.』、5thアルバム『JAPANESE POP』、カバー曲を集めた『大人のまじめなカバーシリーズヒット』を経て、新作『勘違い』をリリース。自身の作品では全てのアートワーク、メイク&スタイリングをこなし、ミュージックビデオでは企画・演出も手がける、音楽だけに留まらない多才さも注目を集めている。

http://www.ando-yuko.com/


6thアルバム

6thアルバム『勘違い』
2012年3月28日発売
CTCR-14760 定価 ¥3,000(税込)
cutting edge

[ 収録曲 ]
01.勘違い
02.エルロイ
03.輝かしき日々
04.すずむし
05.それから
06.アフリカの夜
07.永すぎた日向で
08.地平線まで(Album Ver.)
09.飛翔
10.お誕生日の夜に
11.鬼


【ライヴ情報】
安藤裕子 LIVE 2012 「勘違い」
■2012/4/30(月祝)
 東京国際フォーラム ホールA
■2012/5/05(土)
 オリックス劇場 (旧 大阪厚生年金会館)


【イベント情報】
安藤裕子 LIVE 2012 「勘違い」
■2012/5/19(土)・20(日)
 GREEN ROOM FESTIVAL ‘12
■2012/7/21(土)・22(日)
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