<インタヴュー> 秦 基博「言葉にできないからこそ、曲を書いている」 ――秦 基博が語る映画『あん』、そして歌う理由

<インタヴュー> 秦 基博「言葉にできないからこそ、曲を書いている」 ――秦 基博が語る映画『あん』、そして歌う理由

ニューシングル『水彩の月』をリリースした秦 基博。

カンヌ国際映画祭にも出品された河瀨直美監督の新作映画『あん』の主題歌として書き下ろされた一曲は、ピアノの響きを活かした壮大なバラード。静かに、しかし切々と思いが伝わってくるような一曲だ。

秦 基博へのインタビュー。今回の「水彩の月」は、単なる主題歌というよりも、表現者同士のコラボレーションの結実として完成したようだ。制作の背景、そして歌い手として、ミュージシャンとしての意識について語ってもらった。

取材・文=柴 那典


どこにでもあるものがテーマ


ーー新曲は河瀨監督の依頼で書き下ろしたんですよね。

秦:そうですね。

ーー前々からお知り合いだったんですか?

初めてお会いしたのは2013年の頃ですね。『Signed POP』の全国ツアーの時に、奈良の公演に河瀨さんが見に来てくださったんです。そこで初めてお会いして、その時に「一緒に何かできたらいいよね」という話をしていて。それが実現したのが去年の12月に大阪で開かれた「シンクロニシティ」というイベントだったんです。

ーー大阪でトークセッションとライヴのイベントをやっていましたね。

ドーム型のイベント会場で、天井に360°映像が投射できるシステムがあって。ライヴでは監督がその日のために作ってくれた映像を映し出して弾き語りをしたんです。打ち上げの時に監督から「今『あん』という映画を撮っているんだけど、曲をお願いしたら書いてくれる?」って言われて「もちろん喜んで書きますよ」と即答して。それからしばらくして正式な依頼をいただきました。

ーー一緒にコラボレーションをして、どういうところが河瀨監督の作品の魅力だと思い、どういうところに共感しましたか?

なんだろうな……まず監督の作品は、人間の生きている営みとか、自然にある美しさを切り取っているんです。監督が映画の中に閉じ込めようとしている、映像の中で訴えかけようとしているものって、ある意味ではどこにでもあるものがテーマで。でも、映像を見ていると河瀨監督の切り取り方の美しさみたいなものを感じる。それによってオリジナリティが生まれている。自分自身も音楽を作る上で、日常の中で見過ごしがちな、どこにでもあることの中に曲のテーマがあると思うので、そこにはすごくシンパシーを感じました。

ーー自然の風景とか、田舎とか、そういうなんでもないものがすごくキラキラと輝いているような映像ですよね。

そうですね。『あん』の中でも、木漏れ日を暖かく優しく感じるようなところもあれば、そこにすごく寂しさを感じる時もある。同じような景色でも、どう切り取るか、どういう心情をそこに投影しているかによって変わってくる。同じ月が、寂しく見えたり、希望に満ちて見えたりする。そういうところが、監督の作品の中には表れている気がしました。


静けさの中にある美しさや強さを感じた


ーー曲を書く前に実際に映画を観ました?

観ました。「ゼロ号試写」という、完成前の編集版を観る機会をいただいて。それから曲を書いたんです。監督から、とにかく映画を一度観てほしいという話があって。

ーー脚本とか原作じゃなく、映像を見て書いてほしいという?

そうです。脚本はその後にもらいましたね。曲調とかメッセージ、歌詞に関しての具体的なオーダーは事前にはなくて、まず見て感じたものを形にしてくださいっていうオファーでした。

ーーなるほど。それで実際に映像を見て感じたことが、先ほど仰ってたような木漏れ日や月の美しさだった。

登場人物の方達の台詞とか表情の中にもたくさんメッセージがあるんですけど、それ以外にも、桜の花びらが散る様子だったり、今回の曲名にもなった月だったり、そういうところにメッセージが込められているなって思ったんですよね。それは言葉にはなってないし、ひょっとしたら言葉にできないのかもしれないですけど、そういう思いが沢山あふれている。それは、自分自身にも、いろんな人にとっても、共感できることだと思えたんです。

ーーと言うと?

自分自身も、いつも言葉にできないことを歌にしようとしているんです。それに、誰もが毎日を過ごす中で言葉にはなりきれてない思いを抱えているんじゃないかと思うんですね。映画の中からすくいとったメッセージも、そういうものだった。それがサビの〈話せなかったことがたくさんあるんだ〉っていうフレーズに繋がっていったんですけど。あとは観終わってピアノが合うなとは思いました。

ーーピアノが合うっていうのはどういうところから?

これは感覚的なことなんですけど、静けさの中にある美しさや強さを感じたので、ピアノの凛とした音色が合うと思ったんです。普段はアコースティックギターが自分のメインの楽器ですけど、今回はピアノで曲を作ってみようかなって。

ーー秦さんはプレイヤーとしてはピアノに慣れ親しんでいるんですか?

いやいや、全然弾けないんです。でも、鍵盤を一つ一つ押さえて、自分のイメージしている音を探して作っていきました。

ーー作り方としてはいつもとはちょっと違う。

そうですね、そういう意味ではピアノならではの響きの中でメロディを作っていますね。


次ページ:いろんな感情が混ざったものがそこにあった

ページ:

1

2 3

関連記事

秦 基博

2006年11月シングル「シンクロ」でデビュー。透明かつ繊細でありながら力強さを併せ持つ歌声は"鋼と硝子で出来た声"と称され、「鱗(うろこ)」「アイ」などのヒットで一躍注目を集める。
昨年リリリースした映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌「ひまわりの約束」は各種年間チャートを席巻し、弾き語りによる初ベストアルバム「evergreen」は「第56回 輝く!日本レコード大賞」の企画賞を受賞する等、今最も注目を集めるシンガーソングライター。
2015年6月3日(水)に、第68回カンヌ国際映画祭正式出品映画『あん』主題歌のシングル「水彩の月」をリリース。


オフィシャルサイト


18th single『水彩の月』

DVD付初回生産限定盤:AUCL-178~179 / 2,000円(税込)


通常盤:AUCL-180 / 1,300円(税込)

2015年6月3日(水)発売
[ 収録楽曲 ]
1. 水彩の月
2. サインアップベイベー
3. アイ~Acoustic Session with KAN~
4. 水彩の月(Cinema ver.)
5. 水彩の月(backing track)

[ 初回生産限定盤特典 DVD ]
・河瀨直美監督が16mmフィルムで秦 基博を撮り下ろしたスペシャル映像他収録



< LIVE INFORMATION >
6月27日(土) 「沖縄からうた開き!うたの日コンサート2015」
7月25日(土) 「NUMBER SHOT 2015」
8月08日(土) 「J-WAVE LIVE SUMMER JAM 2015」
8月29日(土) 「音楽と髭達2015 -MUSIC STADIUM-」
9月05日(土) 「世界遺産登録応援プログラム『世界遺産劇場 -縄文あおもり 三内丸山遺跡-』」
9月26日(土) 「YAMAZAKI MASAYOSHI in Augusta Camp 2015 ~20th Anniversary~」


ページ上部へ戻る